2036年の車を考えるとき、「全部自動運転になる」「ガソリン車は消える」「空飛ぶ車が道路から飛び立つ」と一つの未来へまとめると、かえって現実から離れます。
10年後に起きそうな一番大きな変化は、車が一種類の未来車になることではありません。「自分で運転する楽しさ」と「目的地まで運んでもらう便利さ」が、今よりはっきり別のサービスとして選べるようになることです。地域交通は自動運転へ、日常車は電動化へ、趣味の車にはエンジンの感触が残る。空飛ぶクルマは道路を走る車の後継というより、空港や離着陸場を使う新しい航空交通として育つ。現在の制度と開発状況を見ると、この姿が最も自然です。
- 自動運転:まずは走る場所と条件を決めやすい地域交通から広がっている。
- エンジン:日本の「電動車」にはHVも含まれる。2035年目標を「エンジン全面禁止」と読むのは正確ではない。
- 空飛ぶクルマ:家庭用自動車の延長より、離着陸場・運航管理を伴う航空サービスとして実装が進む。
2036年に変わるのは、車そのものより「運転する理由」
いまは、移動したいから自分で運転する場面がたくさんあります。駅が遠い。バスが少ない。送り迎えが必要。荷物がある。運転したいからではなく、運転しなければ移動できない。
自動運転が社会に入るほど、この二つは分かれていきます。移動のための運転は減り、運転そのものを楽しむ時間は、むしろ意味が濃くなる。毎日の送迎は自動運転の小型バスへ任せ、休日は好きな車で海沿いを走る。技術が運転を奪うのではなく、「運転しなくてもいい時間」と「わざわざ運転したい時間」を分けてくれる未来です。
自動運転は「どこでも走れる車」より、まず地域の足として現実になる

国土交通省によると、日本では2023年以降、制度上レベル4自動運転が可能になり、2026年2月までに全国10カ所で実装されています。現在の主役は、自治体のバスなど地域公共交通です。
ここから見える2036年は、「自家用車が全国どこでも眠ったまま目的地へ運んでくれる」という一足飛びの未来ではありません。駅から病院、住宅地から商業施設、観光地の周遊など、走る区域と役割を決めた場所から自動運転が日常へ溶け込む未来です。
自動運転で大切なのは、技術のレベル名より「誰の移動が楽になるか」です。免許を返納した後でも病院へ行ける。家族が送迎に時間を使わなくていい。運転手不足の地域でも移動手段を残せる。車の未来が人を感動させるのは、センサーの数ではなく、今まで諦めていた移動を取り戻せたときだと思います。
2035年の「電動車100%」は、エンジンが突然消えるという意味ではない
経済産業省は、2035年までに乗用車の新車販売で電動車100%を目指しています。ここでいう電動車にはEVだけでなく、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車、燃料電池車も含まれます。
つまり、日本の政策目標を根拠に「2035年からエンジン車には乗れない」と言い切ることはできません。新車販売の目標と、すでに保有している車も別です。
さらに、メーカー側も一つの方式へ絞っていません。トヨタは2026年も液体水素を使う水素エンジンGRカローラを耐久レースへ投入し、実戦環境で技術を検証しています。これは2036年の市販車を約束するものではありませんが、内燃機関そのものの研究が終わっていないことは確認できます。
エンジンが残るなら、「必要だから」より「好きだから」残る部分が増える
私は、ここが車好きにとって一番面白い変化だと思います。
移動の道具として効率だけを比べれば、電動化や自動化が有利になる場面は増えます。だからこそ、エンジン車に残る価値は「仕方なく使う」から「音、振動、変速、回転の上がり方を楽しむ」へ寄っていく可能性があります。
便利さで残る車と、愛着で残る車が分かれていく。これはエンジンに限りません。EVでも、操舵感や加速、デザインで「運転したい車」は生まれます。2036年に車好きが失うものばかりとは限りません。自動運転が広がるほど、「自分で走らせる」という行為が趣味として際立つこともありえます。
空飛ぶクルマは「車が空を飛ぶ」より、空港と街をつなぐ新しい航空交通になる

国土交通省と経済産業省が2026年3月に改訂したロードマップでは、2027〜28年から一部地域で商用運航を始め、2030年代に運航管理や遠隔操縦、自動・自律運航を段階的に整える計画が示されています。
ここで扱われる「空飛ぶクルマ」は、家のガレージから道路へ出て、そのまま翼を出して飛ぶ乗用車を中心にした構想ではありません。離着陸場を使い、航空の安全管理の中で運航するAAM(Advanced Air Mobility)です。
愛知県の「空と道がつながる愛知モデル2030」でも、県営名古屋空港のeVTOL離着陸場整備に向けた調査・設計などが進められています。地上の自動運転と空の移動を別々に競わせるのではなく、乗り継ぐ前提で考えている点が重要です。
Honda eVTOLを見ると、「空の車」が実は航空機だと分かる
HondaはHybrid eVTOLのフルスケール技術検証機で2026年4月に初飛行を行い、現在も技術検証を続けています。Hondaが想定する用途は都市間旅客で、ビジネスジェットやヘリコプターの補完です。
この説明だけでも、「空飛ぶクルマ」という日本語から想像する家庭用自動車とはかなり違います。2036年に空の移動が身近になるとしても、私たちが買う車より、予約して乗る便として先に身近になる可能性が高い。現在の制度と開発の方向を見る限り、その読み方が現実的です。
2036年の一日は、こんなふうなら十分に未来らしい
ここからは、2026年時点の実装と計画を土台にした想像です。
朝、自宅近くの停留所から無人の地域シャトルに乗る。車内では運転せず、家族へ連絡を返す。駅から列車で都市へ入り、さらに遠い目的地なら空港近くのAAM便へ乗り継ぐ。帰宅した週末には、ガレージの車を自分で運転して、目的地を決めずに走る。
全部を一台がやる必要はありません。むしろ、未来の豊かさは「どれに乗るかを選べること」にあります。急ぐ日は任せる。景色を楽しみたい日は運転する。距離を飛び越えたい日は空へ乗り継ぐ。
車の未来を「人間が運転しなくなる」とだけ描くと寂しく見えます。しかし、移動の義務から運転が解放されたら、運転はもっと純粋な楽しみに戻るかもしれません。
10年後の車を見るとき、数字より「何が実装されたか」を追う
2036年を当てることはできません。けれど、未来がどちらへ進んでいるかは追えます。
| 見るもの | 確認すること |
|---|---|
| 自動運転 | 実証実験の数ではなく、実際に住民が使う運行へ移った地域 |
| 電動化 | 販売目標だけでなく、充電・燃料・価格・使い勝手が日常へ入ったか |
| エンジン | 研究車が市販技術へつながったか、趣味性のある車に何が残ったか |
| AAM | 機体の飛行成功だけでなく、離着陸場・運航制度・商用便がそろったか |
未来は発表資料ではなく、普通の人が予約して使えるようになった瞬間に現実になります。新技術の数字を追うより、「誰が、どこで、普通に使い始めたか」を見る方が10年後を正確に読めます。
よくある質問
2036年には自家用車が全部自動運転になりますか?
そのような全国一律の実現時期は公表されていません。現在の日本では、地域公共交通など走る条件を設計しやすい領域からレベル4の社会実装が進んでいます。
2035年にガソリン車へ乗れなくなりますか?
日本政府の目標は、乗用車の「新車販売」で電動車100%を目指すものです。 電動車にはHVも含まれ、既存車を2035年に一斉に使えなくする内容ではありません。
空飛ぶクルマを個人で買って家から飛ぶ時代になりますか?
現在の日本のロードマップや開発事例は、離着陸場と運航管理を伴う旅客輸送が中心です。まず注目するべきなのは家庭用車両の販売より、どの地域で商用便として使えるようになるかです。
まとめ|2036年、車は「移動の義務」から少し自由になる
自動運転、電動化、エンジンの研究、AAM。これらは同じ競争の勝者を決めているわけではありません。それぞれが、違う不便や違う楽しさを担当します。
通勤や送迎は任せる。旅は速くつなぐ。そして、運転したい日は自分で走る。私は2036年の車の未来を、そんなふうに想像します。
車が好きな人にとって、未来は「運転する権利を奪われる世界」である必要はありません。むしろ、移動しなければならないから運転する時間が減り、運転したいからハンドルを握る時間が残る。それなら10年後は、今より少し車が贅沢な存在になっているのかもしれません。
参考にした情報
- 国土交通省 Grasp「始まったレベル4の社会実装」 — 国内のレベル4制度と2026年2月までの実装状況。
- 経済産業省「自動車・蓄電池産業」 — 2035年までの乗用車新車販売における電動化目標。
- トヨタ「水素エンジンGRカローラ S耐富士24時間で未来へ向けて世界初の挑戦へ」 — 2026年の水素エンジン技術検証。
- 国土交通省「空の移動革命に向けたロードマップを改訂」 — 商用運航と2030年代の段階的な制度・技術整備。
- 愛知県「空と道がつながる愛知モデル2030」2026年度事業概要 — AAMと陸上モビリティの連携、離着陸場整備の取組。
- Honda R&D「Hybrid eVTOL」 — 技術検証段階、想定用途、2026年のフルスケール飛行試験。
